月のうさぎ/ジャータカ物語

ジャータカ物語

月のうさぎ

釈迦さまがこの世に兎として生をうけたときのお話です。

 ウサギは鹿野苑という美しい森でサル・ヤマイヌ・カワウソの三匹と平和に暮らしていました。ウサギはいつも正しい生活をしていました。

それどころか、もっと正しい生き方をしたいといつも考えていました。

 ウサギはこのような強い願いをもちながら、森の仲間たちにも一緒に正しい生活をするようすすめていました。

真実の道を求めながら苦しみ悩んでいる人々を救う人を「菩薩」と呼びます。このウサギもまた菩薩でした。

 

毎日夕暮れになると三匹の仲間は心から敬愛する兎のもとに集まり、ウサギの話に耳を傾けることを楽しみにしていました。

「道を求めて修行している人のために施しをしよう。そして一日の生活をふりかえり、至らなかったことを反省しよう。」

ウサギからいつも語り聞かされていたこの言葉は、生きた力となって三匹の心を力強くささえていました。

 

あしたは満月、森では「ウポーサタ」が開かれます。これは正しい生活をするために良いことと悪いことを学び、自分の行いを反省しあう集まりのことです。そこで兎は「あしたは修行僧が托鉢にこられたら、僕たちの食べ物のなかから施しをしよう。」

三匹は良い行いをする楽しみを知っていましたから、もちろんそろって快い返事をしました。

 

よいよウポーサタの日の朝です。

三匹はエサをさがしに出かけました。ウサギは自分の食べ物であるダッパ草をながめながらひとりごとを言い出しました。

「ボクはこのダッパ草のほかには持ちあわせがない。何をさしあげたら良いだろうか・・・・・そうだ!」

ウサギは心の中で尊い考えをおこし、それを心に誓いました。

その瞬間、天上の世界で不思議な変化がおきました。それは地上の世界で大変めずらしいことがおこったしるしでした。

そこで天の神である帝釈天はウサギの決心が間違いないものであることを試すため、みすぼらしいバラモン僧の姿をして森へやってきました。

バラモン僧となった帝釈天は四匹が住んでいるすぐ近くの木の下に行き、飢えと暑さで弱りきった体を休めようと腰を下ろしました。それを見つけた四匹は大喜びで僧を迎え、かねてから用意していた施し物をもってきました。カワウソは赤魚、ヤマイヌは肉と牛乳、サルはマンゴーと清水を僧にささげました。

こうして三匹から施しをけた僧は、それを料理しようとたき火を始めました。

するとウサギはうれしそうに僧の前に出てうやうやしくおじぎをして言いました。

「お坊さま、私は何ももっていません。しかしあなたのような尊いお方に私のもっているただ一つのもので供養できますことは、この上なく嬉しいことです。どうか私の心からの施しをお受けください。」こう言い終わりとウサギは枯れ木やこの葉をあつめ火をつけました。火はぼうぼうと燃え、あたりを赤々とそめました。その燃えあがるた焚き火をしばらく見ていたウサギは身を躍らせてその中に飛びこん見ました。すると不思議なことに、その炎は兎の毛一すじをも焦がさずに、ちょうど金の雲のように兎の身体をつつみました。

ウサギの誠の心にこころ打たれたバラモン僧は、輝かしい帝釈天の姿を現し、まばゆいばかりの両手にウサギを抱きあげました。

「このウサギは私をもてなすため自らの身を捧げた。このような尊い行いはあらゆる世界に知らせなくてはならない。」

それで今でも帝釈天がえがいた兎のすがたが月の面にあらわれ、お釈迦さまの慈悲の心を月の光として私たちに説くようになったのです。

ほら、月をよくごごらん。ウサギの姿が見えるだろう。

 

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金色の鹿/ジャータカ物語

金色の鹿

 お釈迦さまがこの世に鹿として生を受けたときのおはなしです。
 山々に囲まれた静かな森の奥にたくさんの鹿が平和にくらしていました。その中に一頭だけ、とても美しく、金色にかがやくりっぱな鹿がいました。
 この鹿は「苦しむ者を一人残らずたすけたい」という尊い願いを持っていたので、森の生き物たちはこの鹿を王さまとしてうやまっていました。
 ある日のこと。森のはずれの川のなかほどで一人の男がおぼているのを鹿は見つけました。川は大雨で水かさが増し、流れが激しくなっています。しかし、鹿は男を助けるためとっさに川に飛び込みました。
「何と急な流れだ。これでは私もおぼれてしまう。でも、なんとかして助けなければ。」鹿は一生懸命に泳ぎ、やっとの思いで岸にたどりつきました。
鹿の美しい体は、傷だらけでしたが男を救ったという喜びで心は満たされていました。
 男は鹿のその勇気と美しさに深く感動し、何度も頭をさげました。
「あなたはいのちの恩人です。どうして恩返ししたらいいのでしょう。」
「私はおぼれている人を見すごせなかっただけです。べつにお礼などいりません。しかし、一つだけたのみがあります。」
「どうぞ、なんなりとおっしゃってください。」
「この森には、いままで人間が入ったことがなく平和にくらして来ました。ですから森をまもるため、町の人々にわたしを見たなどと話さないでほしいのです。私はこのような姿なので、いのちを狙われやすいのです。人々は自分の欲のために友さえも裏切るものです。しかし、それでは人は幸福にはならない。このことをよく覚えていてください。」
「はい、よくわかりました。決してだれにも話しません。」そう約束した男は町に帰って行きました。
 ところがあるとき、その国のお妃が金色の鹿の夢を見て、その鹿を欲しがりました。そこで国王は、「金色の鹿のことを知っている者にほうびを与える」というおふれを出しました。それをきいて男は鹿との約束をなんども思い出しましたが、貧しさにまけ、とうとうその約束をやぶることにしました。
 男から金色の鹿のことを知った国王は、軍隊をつれて、森に鹿狩りに出ました。森は暗く深く、じっと人間をみています。すると行く手にボーッと白い光が見えてきました。男は声をひそめ「王さま、あれが金色の鹿です!」と指さしました。男は約束を思い出し、手がふるえました。国王は思わずハッとして馬をとめました。あまりにも鹿が美しかったのです。鹿は凛々しい姿で国王をむかえていました。そして気がつくと、森の生き物は人間のみにくさにおどろき、逃げていくではありませんか。
ふしぎに思った国王は、男をみました。すると、なんということでしょう。鹿を指さしていた男の手がくさって地に落ち、苦しそうにうめいていたのです。国王はこのただならぬできごとに、武器を捨てておそるおそる鹿の方へ行きました。
すると、鹿は言いました。
「なぜそうなったか彼にたずねてごらんなさい。」
男はこれまでのことを国王に話しました。
「おまえは何と恩知らずな男なのだ。命の恩人を裏切るとは。何よりも罪深いことだ。反省するがよい。」
国王は鹿の前に進み出ていいました。
「何も知らずあなたを捕らえようとしました。どうぞお許しください。」と深く頭をさげました。
やがて鹿は静かに語りはじめました。
「王よ、あなたも親であるなら、わかるはずです。子どもはどの子もかわいいものです。中でも体の弱い子、おろかな子ほど愛おしく感じます。なぜなら、そういう子どもは誰よりも悲しみや苦しみが多いのです。それと同じように、私はこの男が自分のした罪の深さがわかっていながら、わたしを裏切った。それが気の毒でならないのです。」
 慈悲深い鹿の言葉をきき、国王は冠をとり、鹿にむかって両手を合わせました。
 さて、町へ戻った国王は『みだりに生きもののいのちを取ることを禁ず。すべての生きものに慈悲と歓喜を与えよ』というおふれを国中に出しました。国王はその後もたびたび森に行き、鹿の教えを受け慈悲深い政治を行ったので、国は永く平和に栄えたということです。
                             <ルル鹿本生物語>
 

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